<スポキャリ インタビュー>東海大学体育会水泳部コーチ:加藤健志様
2020/11/07
<スポキャリ インタビュー>
スポキャリでは、大学指導者・プロアスリート・学生などスポーツに関わる人達に、競技・学生生活・就活などのキャリアプランについて、「ネほりハほり」インタビューしていきます!
[聞き手:スポキャリ 柳本元晴]
スポーツ専門誌を多数発行している某出版社で、野球、水泳専門誌をはじめ各誌の編集長を歴任。その間、培った人脈や経験を生かし、競技の現状、学生の就活などなど、いろんな話を根掘り葉掘りインタビューします。
在学中の目標と人生の目標をしっかり立てよう!
加藤健志さん<東海大学体育会水泳部コーチ>
東海大学の体育会水泳部のコーチとして、30年以上の指導歴を持つ加藤コーチは、あわせて日本水泳連盟の医科学委員会及びJOC競泳強化コーチにも属し、日本水泳の強化のために取り組んできた。
その集大成ともなったのが、4年前のリオ五輪。指導する金藤理絵選手が女子200m平泳ぎで金メダルを獲得したのだ。
選手やコーチにとって、最高にして最大の目標であった金メダルを獲得し、一躍衆目を集める格好になったが、それまで東海大水泳部は、日本国内はさておき、世界的に注目を集める選手を輩出してきたわけではない。
なにも、“特別”なコーチではなかったということだ。
地道に努力を続け、信頼を築き上げて、ついに最高の結果を手にしたのだ。
ただ、有望な選手を強くすることだけが、大学の指導者として求められていることではない。多くの学生は、速く泳ぐこと以外に人生の指標を求めているような気がする。
その間、加藤コーチが、大学の指導者として選手に対しての、水泳の指導はもとより、水泳部に属する選手たちの就職活動に対してどのように取り組んできたのか、じっくり聞いてみた。
★部員全員の就職を実現させてきた
「オリンピックで金メダルを獲るような選手については、正直に言えば、まず就職の心配は必要ないです。ひとことで言えば、引く手あまたというか、金藤にしても、多方から声を掛けていただきましたから」
加藤コーチが言うように、五輪のメダリストともなれば、就活そのものは必要ないくらいに、いろいろな方面から声がかかるというのは事実で、それは水泳に限らず、過去のメダリストの例を見てもわかる。
就活という点で言うなら、4年間頑張ってきた一般部員の方に、苦労は少なからずある。
その点、加藤コーチは「他大学と比較することは出来ませんが、東海大学の場合、マネジャーを含め部員全員の就職を実現させています」と、胸を張る。
それは、加藤コーチが30年来の間に培ってきた企業との間の信頼感が大きいと感じられた。
東海大学のコーチとしてだけでなく、他の大学でも教壇に立つこともあり、また東京都の健康相談員として務めてきた実績もまた、その信頼を高める理由の一つになっている。
そして、「加藤コーチの教え子なら」と、企業から高い信頼を得ることに繋がっているのだ。しかし、だからと言って、やみくもに就職をあっせんしてきたわけではない。
★大学水泳界の実情
ここで、大学の水泳部の事情を紹介しておこう。
近年の傾向として、水泳の競技年齢は伸びてきている。かつては、女子選手は高校卒業まで、男子選手は大学卒業まで、という実情があった。その先まで競技を続けるのは、ほんの一部のトップスイマーに限られてきた。
たとえば五輪出場を目標にしている選手は区切りとなる五輪まで、企業からのサポートを得て、競技を続けていく選手がいたが、それとて、全国の競泳選手の数からするとほんの一握りでしかなかった。
さらにここ数年の傾向として、大学を卒業後も競技水泳を続ける選手は増えてきてはいるが、相対的にはその傾向は変わっていない。
大学の指導者にすれば、選手の入学と並行して、就職のことを常に念頭に置いていると言っても過言ではない。
100%の就活をサポートしてきたという加藤コーチは、具体的にはどんな取り組みをしてきたのだろうか。
「まず、入学してきた1年生に話をします。それは、競泳選手としての目標と合わせて、卒業後の目標を聞きます」
選手として在学中に何を目標にするのか、を聞くのは分かるが、1年生の時にすでに卒業後の目標を問うという考えに、少し驚いた。
「逆に言うと、就職の心配はさせない。絶対に就職をさせる。(人気の)東京六大学に負けない就職、これは学生たちに対しても言っています。ですから、学生たちに対して、1年生の時からはっきりとそれを伝え、意識を持たせます。必ず、人前で話をさせます。NHKの元アナウンサーの方に話をしてもらったこともあります。その上で、人前で話をする練習をさせています」
学生に対して、早い段階でしっかりと意識を持たせること、それが在学中はもちろんのこと、就職、社会人となっても効果的であることを加藤コーチは学生たちに指導しているのだ。
★体育会学生に対する企業側の考えに変化
そんな加藤さんは、近年の体育会学生の就活について傾向の変化が如実に表れているという。一言で言うなら、「体育会学生に対する“待望論”が、“復活”してきている」と。
「昔、1・体力がある、2・礼儀正しい、3・目上の人に対して従順である、などなど、他にも理由はあると思いますが、そんな理由で、企業から強く求められた時期があった。
それが、落ち込んだことがあった。理由は簡単です。体育会の学生はスポーツばかりやって、しっかりと勉強していないのではないか、ということです。それがまたはっきりと変わってきている。
携帯電話やSNSでの情報発信が普通になり、人と接することが苦手という人が増えてきた。
その分、体育会の学生たちは、同僚や先輩、監督、部長と言った目上の方たちとも接する機会が多く、スポーツはマナーやルールに基づいて、目標達成に向けてチームを大切に、自分の役割を自覚し、努力する気質を身に着けていることが企業の求める人材イメージに直結しているからこそ、そういった部分があらためて、見直されてきたのだと思います」
東京都の健康相談員を務めてもいる加藤さんは「以前は相談に来る方も、身体の不安、不健康を訴える方がほとんどでしたが、10年、20年くらい前から、身体そのものよりも精神的な不安を訴えてくる人が多くなってきたんです。頑張りたいけれど頑張れない。引きこもりという相談がどんどん増えてきている。そういう精神的な病が増えています」という。
人と接することが苦手ということは、就活でもマイナスとなることが多い。人に接して、しっかりと自分の思いを伝える。相手の眼を見て話ができる。それを比較的にできているのが、体育会系の学生の方に多い。
そんなことが体育会学生の就活状況が好転してきた理由なのだと考えられる。
「勉強、そして練習も、ちゃんとできない学生には、『水泳を辞めろ』と言います。他大学の話ですが、東海大のOBのあるコーチは、ダメな学生は3年で引退させます。これは、私はよくわかる。単に厳しいのではなく、親心だと思います。こんなことをやっていたのでは就職できないぞ、という意味なんです」
いい加減な考え方で学生生活を送っていたら、つまりはどっちつかず、スポーツ選手としても一学生としても、就活を含めて、いい結果は出ないということなのだ。
★指導者としての喜びって何だろう
指導者の喜び、それはどんなところにあるのだろう。
「もちろん、選手を強くする、速くするのが一番。指導してきた選手が大きな大会でいい結果を出してくれることが、大きな喜びです。金藤のことを言えば、途中いろいろアクシデントがあって、彼女が『もうやめたい』と口にしたこともあった。
それを、『絶対、金メダルを獲れる選手になれる。頑張れ、頑張れ』と言い続けてきた。最後、それを実現して彼女から『コーチの言うことを聞いてきて、よかった』と言われてきたことは、本当にうれしかった」
一方で、こんな元教え子の話もしてくれた。
「書道家として著名な“春流(はる)”という水泳部OBがいるのですが、彼が入部してきたときに、いつもと同様に、4年間の大学在学中の目標と、人生の目標を聞きました。その時彼の、水泳の目標は予想されたものでしたが、人生の目標には『書道家』と書いてあった。
きっかけは、高校の先生が、字がうまくて、国体の県代表のジャージに書いてある県名を書くほどだったこと。習字を通してみんなに勇気を与えたい、心を伝えたいと言われたことを聞いて、自分もそういう風になりたい、と思ったらしい」
中高と水泳では伸び悩み気味だった“春流”選手は、加藤コーチの指導の下、五輪選考会の日本選手権に出場するまでの結果を残し、就職は、筆や墨でトップの文具メーカーに入り仕事をしながら勉強、その後独立して書道家への転身を果たしたのだという。
「水泳も徹底的にやる一方で、目標を実現するために、就職についても一生懸命にやっていた。すごく頑張ったと思います」
今では、加藤コーチ自慢の教え子の一人となった。
「彼のように、入学早々から目標を持って、それを実現させるという学生ばかりではないです。指導する中で、目標を一緒になって見つけ出してあげる、導いてあげるというのも大事なことです。そしてそれを実現させることができたなら、それは指導者としての大きな喜びであるのは間違いありません」
就活に臨む学生たちに対してアドバイスを求めてみた。
「たとえば、『4年間水泳をやってきました。頑張ってきました』と言ったとしても、それで終わってしまいます。
企業の方に、『あなたは誰ですか』『何ができますか』『何をしたいんですか』と聞かれて、はっきりと言える人間になれと学生たちに言っています。企業側の雇う形態も派遣社員、非正規社員とかも多い。
お金を動かしているわけで、使えない人には給料を払うのは無駄、とシビアな一面も見られます。正規社員を目指すのならば、しっかりと、その会社を目指す理由や何をやりたいのかを言えるようになってほしいです」
就活にチャレンジしている学生のみなさんにとって、大いに参考になるお話が多かったのではないかと思った。
◆就活のためのキー・ワード◆
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人前で自分の考えをしっかりと話せる人間になれ
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しっかりとした目標を持つことが成功につながる
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体育会学生が求められる社会に戻りつつある
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